拠点メンバー
八尾 寛(ニューロンネットワーク)

1981年京都大学大学院医学研究科修了。医学博士。1981年同大学医学部助手、1985年米国ワシントン大学マグドネル奨学研究員、1993年京都大学講師を経て、1995年より東北大学医学部教授。2001年より同大学生命科学研究科に配置換。専門は生理学、神経科学。1999年より科学技術振興機構の戦略的創造研究(CREST)の代表者として「学習・記憶のシナプス前性メカニズムの解明」に従事。著書に『新パッチクランプ実験技術法』(共著、吉岡書店、2001年)、訳書に『ギャノング生理学 原書22版』(丸善、2006年)など。
- 研究内容の紹介
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脳は,膨大な数のニューロンから構成されており,それぞれのニューロンは複雑なネットワークを形成している。ネットワークの活動がどのようにして脳の機能に統合されていくのだろうか。ここに脳研究の大きな未知が存在している。当研究室では,遺伝子工学を応用した新しい光学的計測法を開発し,ネットワークの機能を可視化することにより,このブラックボックスに光を当てる研究を精力的に進めてきた(Araki et al. 2005; Suyama et al. 2007)。本COEにおいてはこれを発展させるとともに,ネットワークにおけるニューロンの活動を光で制御するシステムを構築し,ネットワークにおける情報の流れを明らかにする。また,環境要因やネットワークの活動そのものがこの情報の流れを変動させるメカニズムを解明する。
生物はさまざまな方法で光を感知し,行動を制御している。チャネルロドプシンは,緑藻類の一種のクラミドモナスの眼点に分布し,可視光に応答してイオンを透過させ,膜電位を制御することにより,この生物の走光性を制御している。現在まで,チャネルロドプシン1と2の2つの分子が報告されている。チャネルロドプシン2は,400-500 nmの青色光に応答して,レチナールがall-trans型から13-cis型に光学異性体変換することにより,非特異的に陽イオン透過性を増大させ,脱分極が引き起こされる。当研究室では,遺伝子工学的方法を用いて,チャネルロドプシン2をマウス海馬ニューロンに発現させた(Ishizuka et al. 2006)。青色発光ダイオードによる短い光パルスにより,活動電位閾値を超えて脱分極が引き起こされ,光照射に同期した活動がニューロンに引き起こされることを確認した。
したがって,ウィルスベクター法,ジーンガン法,トランスジェニック法などを用いて,チャネルロドプシン遺伝子をvivoやvitroのニューロンに発現させ,光照射により,ニューロンをパタン刺激することにより,ネットワーク機能を詳細に解析する展望が開かれる。また,光感受性をニューロンに付与することにより,さまざまな神経疾患の治療や改善が期待される(特開(A) 2006-217866)。われわれは,網膜光受容細胞の変性したラット網膜神経節細胞にチャネルロドプシン2を強制発現することにより,視覚の回復が認められることを報告した(Tomita et al. 2007)。
当研究室では,基礎研究の手段として,遺伝子工学的にニューロンやシナプスの機能を可視化する方法を開発してきた。また,遺伝子工学的にニューロンを光刺激する方法を開発している。この2つの方法を組み合わせることにより,脳に信号を送り,それに対する応答を分析することが,原理的には可能である。いわば,光による脳との双方向通信が期待される。

画像1
シナプトフルオリンによるシナプス活動の光学的解析
シナプスにおける小胞の動態を光学的にレポートする分子のひとつ、シナプトフルオリン(緑)を海馬苔状線維終末特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製した。海馬ニューロンを核染色(DAPI、青)している。苔状線維の頻回刺激により、ここのシナプス前終末において蛍光強度の上昇が認められる(挿入図左および中央)。この変化は差分画像を作成することにより検出される(挿入図右、擬似カラー表示)。
画像2
ニューロンの光刺激
左上:チャネルロドプシン2(1-315)の仮定構造。C-末に蛍光タンパク質のひとつVenusを結合している。
左下:460 nmに吸収のピークを持つ青色光によるレチナールの光学異性体変換により、非特異的な陽イオンチャネルゲートが開く。
右上:海馬歯状回顆粒細胞におけるチャネルロドプシン2-Venusの発現。
右下:青色LEDのパルス光(青色ドット)によるニューロンのパターン駆動。 - 代表的な論文
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- 1. Suyama, S, Hikima, T., Sakagami, H., Ishizuka, T, Yawo, H. (2007). Synaptic vesicle dynamics in the mossy fiber-CA3 presynaptic terminals of mouse hippocampus. Neuroscience Research (in press).
- 2. Tomita, H., Sugano, E., Yawo, H., Ishizuka, T., Isago, H., Narikawa, S., Ku¨gler, S., Tamai, M. (2007). Visual responses in aged dystrophic RCS rats were restored by AAV-mediated channelopsin-2 gene transfer. Invest Ophthalmol Vis Sci. 48, 3821-3826.
- 3. Ishizuka, T., Kakuda, M., Araki, R., Yawo, H. (2006). Kinetic evaluation of photosensitivity in genetically engineered neurons expressing green algae light-gated channels. Neuroscience Research 54, 85-94.
- 4. Araki, R., Sakagami, H., Yanagawa, Y., Hikima, T., Ishizuka, T., Yawo, H. (2005). Transgenic mouse lines expressing synaptopHluorin in hippocampus and cerebellar cortex. Genesis 42, 53-60.
- 5. Kamada, M., Li, R.-Y., Hashimoto, M., Kakuda, M., Okada, H., Koyanagi, Y., Ishizuka, T., Yawo, H. (2004). Intrinsic and spontaneous neurogenesis in the postnatal slice culture of rat hippocampus. European Journal of Neuroscience 20, 2499-2508.

